がん政策サミット2009春
47都道府県のがん対策と予算の現状
当機構 がん政策情報センター センター長 埴岡健一
がん対策の現状
「我々はどこまできたのか。何を目指すのか」
2009年は、がん対策推進基本計画の5年目の見直しに向けての折り返し地点の時期に当たり、また2010年診療報酬改定を見据えた検討が開始されます。「がん政策サミット2009春」の開催に際し、当機構の埴岡は、がん対策のこれからの取り組みについて講演しました。
がん対策を変えていくためには、「政策決定への参加」と「地域主導の改革」、そして「患者・市民からの提案」の3つの活動が大切です。今日、参加している皆さんはこの3つが重なる位置に立っていらっしゃる。それはとても素晴らしいことです。ここでは、今後さらに取り組みを進めていくために、行うべきことをまとめてみたいと思います。
総選挙が近い現在は、がん医療の問題を国政に問うチャンスだといえます。 私たちが国レベルの取り組みに関わるためには、「選挙の際、マニフェスト(政権公約)にがん対策が入るか」「地元の国会議員が、がん対策に関する議員連盟に入っているか、それに積極的に参加し活動しているかどうか」などを見極めることが大切です。
国の施策でいえば、2009年3月にがん施策・予算ワーキンググループが作成した「平成22年度がん対策予算に向けた提案書~元気の出るがん対策~」が実行されるかどうかも見守る必要があります。そして、第2期目に入る「がん対策推進協議会」が十分に機能するかどうか、そのなかの患者関係委員がどのような役割を果たすかも見ていかなくてはならないでしょう。がん対策推進基本計画は、5年目の計画見直しに向け、「PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクル」が回っているかも検証する必要があります。
また、10年は2年に1回の診療報酬改定の年です。がん診療は赤字基調であるため、充実したがん医療が出来ないという問題があります。医療給付費30数兆円のうち、がんの診療に関する医療費は約2兆5000億円です。これを1%増やせば、それだけの充実が出来るという構造にあります。診療報酬の増額や改定によって、例えば緩和ケアの充実やがんの医療連携推進など、がん医療の改善を図ることができます。
診療報酬改定は現在審議が進められており、10年の2月くらいまでに点数の枠組みが決まります。すでに最初の勝負は始まっています。がん医療の診療報酬・予算の充実をテーマに、皆で学び、提案していくことが必要です。また地域レベルでの取り組みも大切です。地方選挙においても、皆さんの地元議員のマニフェストにがん対策が入っているかどうかの確認をしましょう。
都道府県がん対策推進計画の「実施計画」がうまく策定できているかの確認も必要です。また、最近注目を浴びているのが、都道府県の「がん診療連携協議会」です。これは地域のがん診療連携拠点病院を集めて組織される団体ですが、地域のがん診療の実態を大きく左右する力をもっています。これが開催されるか、活発な活動が行われるかによって、地域のがん医療のレベルが変わります。ここに患者関係委員が参加するかどうかでも、地域がん医療への影響は大きく異なってきます。
こうした状況を確認した上で、自分が何をしたいのかを改めて確認しましょう。そして行動し、問題解決を図るのです。問題解決の図り方は、この後ワークショップで行っていきます。
効果的なアドボカシー(患者や市民などによる政策提言)を行うには、「誰に」「いつ」「どのように」アプローチするのかが大切です。そうしたことも、皆で考えていきましょう。
私は、日本のがんアドボカシーのレベルは高いと思います。メディアや民間の協力を得て、行政と立法、医療提供者をつないでいく六位一体の地域モデルを作れるのは患者さんです。患者さんが呼びかけ、リードしていくことで、がん医療の均てん化が図られ、より良いがん対策ができる国へとなっていくと確信しています。
これからも、がんばりましょう。(ライター・星野美穂)
メディアへの意見投稿の上手な活用法
山梨県 がん対策推進協議会 委員 若尾直子さん
最大の敵は無関心
メディアを有効利用する意義は大きい
私は新聞を使い、当事者の声を社会に届ける活動をしています。投稿で気をつけているのは、新聞社内の役割分担を知ることや、時流にあったテーマを選ぶこと、そして重要なのは“当事者としての自分のテーマを貫くこと”です。なぜなら、当事者としての意見を新聞に載せることで、医療者の反応を引き出すことができ、議論に巻き込んでいくことができるからです。
最大の敵は無関心です。住民一人ひとりが自分たちの地域のことは自分たちで考え、みんなと一緒により良くしていく。そのための手段のひとつとして、メディアを有効利用する意義は大きいと思います。(ライター・星野美穂)
地域の緩和ケア・在宅医療の推進
島根県 がん対策推進協議会 委員 納賀良一さん
在宅医療を支える基盤構築のために 患者さんから医療提供者への働きかけ
私は島根県の地域医療支援病院である日本赤十字社・益田赤十字病院の運営委員会の患者委員代表として活動しています。
この運営委員会において患者委員の存在をアピールすることで、図書コーナーの設置や情報ファイルの作成、ロビーにおける勉強会実施などを実現してきました。
一方、益田市には地域医療支援病院として医師会病院もありますが、益田赤十字病院や地域の開業医との連携が十分とはいえない状態です。地域として在宅医療を支える基盤ができてないことが住民の悩みとなっています。今後は、益田赤十字病院の患者委員として活動してきた経験を生かし、患者側からの連携を試みていきたいと思います。また、2009年9月に開催されるがんサロンの全国交流会では、七位一体をステージ上で表現する予定です。(ライター・星野美穂)
がん患者団体連絡協議会設立の一考察
秋田県 がん対策推進協議会 委員 田口良実さん
“連携のための心構え”を共有し
趣旨の異なる団体の連携効果を最大化
秋田県では、2008年5月、5つの患者団体などが集まって「秋田県がん患者団体連絡協議会 きぼうの虹」を設立しました。
設立に当たっては、以前他の患者団体と連携しようとして仲間割れになってしまった自身の経験を踏まえ、「連携するにあたっての心構え」を提案しました。 各団体と話し合い、連携にあたっては「設立経緯、目的、趣旨の違う団体であり、他の団体を認める気持ちが必要」であること、連携のかたちとしては「共通の催しを共同で開催」することを合意した経緯を発表しました。
連絡協議会が設立されたことで、講演会などを開催する際に県の補助を受けやすくなったこと、また活動が活発化してきて県内に波及効果をもたらしたなどの成果も得られました。(ライター・星野美穂)
がん条例制定に関する県議会への要望書について
奈良県 がん対策推進協議会 委員 吉岡敏子さん
がん患者団体3団体3代表が
県議に文書で条例制定を要望
奈良県では、2007年度中に策定することが求められていた「都道府県がん対策推進計画」が08年度になっても策定できていませんでした。そこで、ある県議会議員が定例県議会において推進計画策定の遅れについて質問され、知事から前向きな答弁をいただいた。加えて議員から関係者への根回し調整をされ、それらを契機に、がん患者団体3団体3代表が全県会議員に文書で条例制定を要望しました。その結果、県会各派で代表者を出して協議を進めていただくことになりました。
さらに、がん対策予算は、08年度が9600万円だったのに対し、09年度は1億7000万円と大きく伸び、地域のがん医療進展に大きく寄与する結果ともなりました。(ライター・星野美穂)
愛媛県がん対策推進議員連盟の設立について
愛媛県 がん対策推進協議会 委員 松本陽子さん
他県の好事例を県議会議員に伝えたことが契機となり、議連発足
愛媛県議会では、がん対策推進議員連盟が発足しました。この背景としては、がん診療連携拠点病院医師の紹介により、県議会議員(以下、県議)に会い、がん政策サミットで学んだ他県の議連のことや好事例などについて情報提供し、関心を持ってもらったという経緯があります。
その後、がん患者大集会に県議を招いたころ、愛媛県議会や松山市議会にも案内状を出してくれ、多数の県議・市議の参加を得られました。
大集会終了後には、県議から「患者・家族のみなさんの思いに沿うがん政策を地元でもしっかりやりたい」というお声をいただきました。その後4か月で議連が発足し、党派を超えた取り組みがスタートしました。
2009年6月18日には、がんの当事者、議連、医療提供者、行政、メディア、経済界の方々を招き、「六位一体」で勉強会を開催する予定で、これを成功させて、さらに次のステップへとつなげたいと考えています。(ライター・椎崎亮子)
課題解決ワークショップ
課題解決シートを使い
問題解決のプロセスを実感
出席者が3つの分科会に分かれてそれぞれのテーマについて課題解決のためのディスカッションを行いました。
分科会1:地域の緩和ケア・在宅医療の推進――島根県の議題から
分科会2:医療圏とがん診療連携拠点病院の指定要件――山梨県の議題から
分科会3:県がん対策推進計画のブラッシュアップ――滋賀県の課題から
課題解決のディスカッションは、「課題解決シート」を使って行われました。同シートは、左上に「テーマに対する問題点」を書き出すスペースがあり、右上には「理想のあり方」を書くスペースが設けられています。シート中央は、「理想のあり方が実現できない阻害要因」を書き出すスペースであり、その下が「阻害要因を取り除くために誰が何をすべきか」を書き込むスペースとなっています。
参加者は、ディスカッションを重ね、付箋紙を活用しながらそれぞれのスペースを順番に埋めていきます。大勢で意見を出し合うなかで、その意見を集約し問題解決の方策を探り、最後は誰がいつまでに何をするというところまで、解決策を具体化させていくというものです。
分科会1:地域の緩和ケア・在宅医療の推進―島根県の課題から
2つの地域医療支援病院が対立するなかで地域の在宅緩和ケアが進まないという現状に対して、「行政・医療関係者の在宅緩和ケアのニーズへの知識・認識不足」「医療資源の不足」「行政、患者、関係者の話し合い不足」の3点が阻害要因として抽出されました。
そしてディスカッションの結果、行政がすべきこととして、「医療者や患者に対して、在宅緩和ケアについてのあるべき姿の啓発を行う」「在宅医療ができる開業医の調査」「行政主導による医療者・患者・市民のミーティング」などの解決策が示されました。
分科会2:医療圏とがん診療連携拠点病院の指定要件―山梨県の課題から
山梨県では、がん診療連携拠点病院でリニアック *1を購入するための予算がないことにより、拠点病院の認定を辞退するのではないかという問題が起きています。この解決法を探りました。
理想としては、各拠点病院にリニアックを購入できるだけの予算が振り分けられ、かつリニアックを使いこなせる医師や技師が確保できればいいのですが、その阻害要因として、「予算がない」ことがあげられています。さらに深い問題として、「患者当事者が問題を知らない」ということが指摘されました。そこから問題を解決するための方策として、「まず問題を認識するための勉強会や施設見学などを行う」「患者当事者や団体などによるグループが集まれば、メディアへの訴求力も高まるため、キャンペーンを展開して、啓発活動や講座などを開催する」「署名や要望書活動などを行い、メディアとも連携する」という提案がなされました。
分科会3:県がん対策推進計画のブラッシュアップ-滋賀県の課題から
滋賀県には、県が作る「がん対策推進協議会」とがん診療連携拠点病院が作る「がん診療連携協議会」が存在し、どちらが県のがん対策を進めていくのかがはっきりしないという問題がありました。また、がん診療連携協議会に患者関係委員の参加を求めたところストップがかかったという経緯もありました。
この解決策として、県の責任の所在をはっきりさせるために「県がん対策推進計画の目標値についての責任をどこがとるのか、2つの会で話し合う」「市民・患者の意見を聞いてもらうためのタウンミーティングを開催する」などの意見が出されました。今回は滋賀県の事例でしたが「地域ごとにさまざまな事情がある。県がん対策推進計画のブラッシュアップは土地柄にあったやり方が必要」との意見が出されました。(ライター・星野美穂)
- *1 リニアック:放射線治療機器に用いられる加速装置のひとつ。
[関連情報]
更新日:2010年01月25日