がん政策サミット2009春
厚生労働省がん対策推進協議会予算提案書はこうして出来た
当機構 がん政策情報センター センター長 埴岡健一
日本初、がん対策推進協議会からの
予算提案はこうしてできた
今回の70本の推奨施策から成る「平成22年度がん対策予算に向けた提案書~元気の出るがん対策」を策定するにあたり、アンケートやタウンミーティングに参加していただいた皆さんには改めて御礼申し上げます。2009年3月19日に舛添厚生労働大臣に、皆さんと一緒に作った予算提案書を手渡してきました。
予算提案書の策定に参加した、協議会の患者関係委員からは「がん対策基本法ができたときに、故・山本孝史参議院議員に『これからはがん対策をあなたたちが作るんだよ』と言われました。できるはずはないと思ったけれど、やればできた」という話がありました。私からは「国の予算は、患者や市民、医療提供者、地域の行政担当者など、現場でがんに関わるさまざまな人たちで作るものある」という話をさせて頂きました。舛添厚生労働大臣は「これこそ現場の声に基づいた提案だ。がん以外にも広げていきたい。ありがとう」と絶賛してくれました。厚生労働省 がん対策推進室 室長の前田光哉さんからは「霞ヶ関で施策を考えていてはダメだ。現場から考えなければいけない」という発言もありました。
08年11月28日に開催された第8回厚生労働省がん対策推進協議会においては、事務局から予算提案書のとりまとめについて提案がありました。協議会委員18人のうち、有志メンバーである10人(医療提供者委員4人、患者関係委員4人、有識者委員2人)により、「平成22年度がん対策予算取りまとめ担当委員(がん施策・予算提言ワーキンググループ)」が立ち上がりました。策定にあたっては、厚生労働省はオブザーバーとしての参加で、取りまとめ担当委員10人がアンケートの作成、分析、タウンミーティングの運営、提案書の執筆まで、すべてを行いました。
アンケートは47都道府県庁のがん対策担当者や都道府県がん対策推進協議会委員に行いました。タウンミーティングを東京・仙台の2カ所で開催し、患者や市民、医療提供者、行政担当者など、多くの参加者から意見記入シートを回収し、アンケート結果はウェブでも公開しました。
アンケートからは、「がん予算は充実していない」「現場ニーズに合っていない」という回答結果も出ました。がん対策予算は十分でなく、しかも貴重な予算のうちいわゆるハードウェア関連に多くの予算が使われているという傾向もあります。地方からは、地方財政が疲弊し国からの補助だけでは何もできないことや、医療提供者のマンパワーの問題、医師の研修には予算がついてもコメディカルの研修には予算が出ない、などの指摘も出ました。縦割り行政の弊害で、国や地方自治体とのコミュニケーションが決定的に不足しており、現場のニーズを聞いてから国が現場と一緒に考えて作っていく、というサイクルになっていない実態が浮かび上がりました。さまざまな立場の意見を収約するために、アンケートの結果などをもとに委員から提出された施策提案シートを、委員全員が立場を超えて育て、深めるという方針により、100本以上提出された施策が70本の推奨施策に収約されました。
70本の施策を分野別に分けると、がん対策全般についての2分野と、個別11分野の計13分野となります。これら70本の施策の間には、分野横断的な共通テーマがいくつか見られました。代表的なテーマについては、「がん難民対策(切れ目のない医療の実現)」が9本、「がん診療にかかる医療従事者の確保と育成」が9本、「がんおよびがん対策の現況の『見える化』(可視化)」が14本、「がん対策の情報提供と普及啓発」が9本、「地域の好事例の育成・発掘と全国への浸透」が8本でした。
これまで医療現場では、「国は現場がわかっていない」「どうせ聞いてもらえない」というあきらめがありました。しかし今回、厚生労働大臣に手渡せるようなものができたということで、文字通り「元気の出る」予算提案書になったのではないかと思います。平成22年度予算に盛り込まれるよう、各政党のマニフェストなどにはぜひ入れてもらわなければなりません。提案書の「内容」や「結果」だけでなく、現場の当事者が議論してまとめるという「プロセス」そのものも、今後取り入れられていかなければならないと思います。
みなさん、自分たちの手で作った予算提案書です。これからみなさんで育てていきましょう。(ライター・椎崎亮子)
予算提案書作成に関わった協議会委員からのメッセージ
厚生労働省 がん対策推進協議会 前委員・社会保障審議会 医療部会 委員 海辺陽子さん
批判ではなくよりよい施策への
建設的な意見が重要
この2年間は、家事を顧みずがん対策に没頭する日々でした。
施策シートを自分で作成しようとすると、何をどう書いてよいかわからず、行政担当者の大変さも追体験できました。母をその直前に亡くし、発病から亡くなるまでのプロセスで患者が落ちる『穴』がたくさんあることを改めて感じていたので、その穴を塞ぐことに苦心しました。
完成した施策シートについて、できあがったもののあら探しは簡単です。予算シートは出さない人ほど批判します。マイナス80点と批判するのは簡単ですが、プラス10点をつけることの偉大さを感じました。批判でなく、よりよい施策への建設的な意見が重要なのだと痛感しました。
本当に疲れる作業でしたが、自慢話や悪口、不幸話をせず、よい仲間、一緒にがんばれる仲間がいかに大事かを痛感しました。(ライター・椎崎亮子)
予算提案書作成に関わった協議会委員からのメッセージ
厚生労働省 がん対策推進協議会 前委員・がん診療連携拠点病院の指定に関する検討会 構成員 富樫美佐子さん(あけぼの会副会長)
当事者の立場から単なる要望だけに
とどまらない発言を
私は、あけぼの会ワット隆子会長の代理で参加しました。私自身もがんの転移・再発治療中であり、患者さんからの電話相談を受けていますが「困っている人は減っていない」というのが実感です。
当初は、協議会委員は有識者と行政の方が多くそれぞれの立場の主張が目立ち悲しく感じましたが、次第に自分たちの本音が言えるようになりました。
故・山本孝史議員から「あなたたちが施策を作るんだよ」と熱弁をふるわれたときには、「素人の私にはできない」と感じていたものの、予算案ワーキンググループに参加して今は自信が持てるようになりました。がん対策は六身一体で協力して進めることが重要だと思います。ここまで来られたのは、日本医療政策機構のスタッフの多大なご尽力の賜物です。口で言うことを紙に落とし込むという大変な作業をしてくださいました。
患者・家族の立場から単なる要望だけにとどまらない発言をもっとしていくべきです。参加者の皆さんには好事例を使って地域の底上げを図っていただきたいと思います。(ライター・椎崎亮子)
予算策定プロセス&厚生労働省がん対策推進協議会予算提案書の意義
日本経済新聞社 東京本社 編集局 社会部 厚生労働省・医療班担当記者 前村 聡さん
予算提案書作りは行政との共通言語づくり
「ヤギ記者」とは、省庁などに取材に行って「紙(資料)をください」と資料入手だけに力を入れ、実態を取材せずに記事を書く記者です。しかし、省庁にとって紙(資料)は、記者や一般の人たちとの共通言語であり、非常に重要なものとなっています。今回のようにがん対策推進協議会が予算提案書を作ることは、役所との共通言語を作るという意味で大変意義深いことなのです。
これまで患者側からの要望は、陳情という形のものが中心でした。これに対し予算提案書は、患者の意見を集約し、予算を積み上げる過程で役所の発想を理解した上で作成されるので、具体的な提案につながりやすいと言えます。地方でも同様に共通言語を作ることができれば、単なる陳情型交渉ではなく、役人と対等に話ができるのです。
最終的には厚生労働省の後ろに控える財務省との予算折衝になります。そこでも通用する共通言語を作り上げたわけですから、予算提案書作成は今後につながる大きなことです。中央官庁の概算要求は通常は8月末に行われます。それ以前に局レベルの意見調整は8月上旬、課レベルでは7月中旬~下旬です。予算に関する要望はそれまでに提出することが重要です。タイミングを逸すると1年以上遅れることになります。今回の予算提案書は2010年度を変えるためのものです。また地方の次年度予算では、国からの補助金が決定する2月の都道府県議会が重要なポイントとなります。
次の衆議院選挙に向け、自民党も民主党もマニフェストを一生懸命作っています。小選挙区制の中で、地方の国会議員は選挙区民の声に大変敏感な時期です。「予算提案書の中身を実行します!」ということをマニフェストに書かせれば勝ちです。予算提案書のことを選挙公約に盛り込む候補者を全面的に支持します、という明確な意思表示も必要です。
患者からこのような具体的な予算提案書を提出するということは、厚労省でも初の経験です。「がん関連にとどまらず、こうした方式を国民全体で作っていくことが大切だ」とする舛添厚労大臣の言葉通りだと思います。。(ライター・椎崎亮子)
海外視察報告 患者団体国際会議~好事例共有によるケアの向上をめざして~
厚生労働省 がん対策推進協議会委員 郷内淳子さんと天野慎介さん
海外視察を通じて感じた患者アドボカシーの在り方
「広い視野」と「現場力」、「組織力の有効活用」
2009年3月10日~11日、ポーランドのワルシャワで行われた患者団体 の国際会議「患者会国際会議~好事例共有によるケアの向上を目指して~」に出席した報告が行われました。これは、世界29カ国から100名の患者会リーダーが集まった初めての会議です。
まず、郷内さんより、医療政策に影響力を持つアドボカシーとは何かについて、海外視察で学んだことのお話がありました。
1つ目は、「Think globally act locally.」で、より多くの患者の利益を追求するため、国際的な広い視野に立って考え、実際は現場に即して行動すること。2つ目は、ネットワークの駆使です。ヨーロッパの患者団体は医療界や産業界、メディアと強力なネットワークを築き、主張を実現するための戦略を立てて行動し、政策を決める当事者へのロビイングを根気強く行っていたことを報告しました。
会議は5つのセッション、16の講演で構成されており、そのポイントを説明します。
- 患者会の組織を強化する
糖尿病の患者会は世界的な組織にまで発展し、国際糖尿病連盟は2007年に国連での決議を勝ち取り、世界各国に多大な影響を与えました。 - アドボケートとして患者ニーズを代表する
患者たちの今抱えているニーズの代弁者となり、世の中に説得力のある発信を行うには何が大事かというテーマでした。 - 医療政策に貢献する
行政とのかかわり方のノウハウです。ロビイングには必ずメディアを巻き込み、必ず超党派のスタンスを持つことが大事とのことでした。 - 戦略的協力体制を作る
非常に興味深いテーマです。患者会同士が密接につながることと、専門家集団との戦略的な協力体制が非常に重要という話でした。 - 治療の実例を作る
新薬の承認過程についての話を、詳しく聞きました。
EU(European Union:欧州連合)からの示唆としては、EUは多くの国の連合体で、加盟国ごとに医療制度が違うので地元の患者団体への働きかけが大事だということを強調していました。日本に応用すると、都道府県の患者委員のみなさんが、確実に政策提言などを地元に積み上げることで、最後には国を動かせるのではないか。その意味でEUの例は示唆に富んでいるとの指摘をしていました。
日本の好事例としては、島根県のバナナ募金、抗がん剤の早期承認の署名活動、患者団体の団結により「がん対策基本法」成立が実現したことなどを話しました。
天野さんからは、メディアに訴求力がある“Story Telling”(個人の経験や事例・思い)と“データに基づいた訴えかけ”についての、欧州の患者会による効果的な使い分けが印象的で、患者会組織を強化し提言能力を高めるためのノウハウをどん欲に吸収し、蓄積して共有していた、と報告がありました。「日本の患者団体の手法や戦略や方向性が本当に政策提言に有効なものかどうかなど改めて検証が必要と感じました。欧州の患者団体とは問題点など共通するところもたくさんあり、海外の事例に今後も学ぶことは非常に重要だと思いました」と振り返りました。(ライター・椎崎亮子)
ワークショップ
「がん対策提案書を作ってみよう」
出席者は4グループに分かれ、実際に国会議員に提出するがん対策提案書を作成しました。16日のセッション2と同じく課題解決シートと付箋紙を用い、各グループともに時間いっぱいまで白熱した議論が行われました。
提案書はA4で1ページに収めるという規定があり、また提案の文章は役所との共通言語、施策として役所が理解しやすい形を目指しました。
グループ1: がん難民対策
課題として医師不足・レベルの問題、医療提供者と医療機関同士の連携不足、医療提供者、患者家族とのコミュニケーション不足、情報不足などが浮かび上がりました。
〔提案〕
- 患者・家族の心に寄り添うことのできる医療提供者(医師・看護師・コメディカルなど)を育成するための教育・研修システムの構築と予算措置を講じる
- がん診療施設に対する患者・家族の「全国統一満足度調査」を実施する
- 都道府県ごとのがん診療施設における、治療に関する実態についての情報の収集と公開を行う
- 長期の化学療法に対する助成を行うこと、また「高額療養費助成にかかる限度額適用認定証」の外来診療への拡大を行い、外来にて化学療法を受ける患者の、高額な一時自己負担を解消すること
グループ2: がんおよびがん対策の現況の見える化
グループ2は六位一体に近い混成チームでした。「可視化とは、逆に何が見えていないのか」を課題とし、医療政策そのものと、医療情報の二段階の見えないものがあるという結論が導き出されました。行政側の参加者からは「患者の立場・考え方との相違点を知り勉強になりました」という発言がありました。
〔提案〕
- 国および地方において、がん対策の具体的な進捗状況や数値目標を明らかにすることを目的として、達成度や改善度を第三者により評価するしくみを構築するための予算措置を講じる
- がん医療の均てん化(格差是正)のために、国が治療内容や治療成績、医療資源などのデータ収集を行い、統一フォーマットによりその情報を提供する
- がん対策予算策定の場に、いわゆる「六位一体」の当事者・関係者(患者家族・行政・政治・メディア・医療提供者・民間)を入れ、予算策定の透明化を図る

グループ3: がん対策の情報提供と普及啓発
実現可能性の高いものを目指して提案をつくりました。義務教育についてはがんを子供たちに知ってもらい、国民全体の意識改革につなげたい意向です。「がん相談員」「支援センター」構想のポイントは情報提供と啓発でした。情報は不足気味だが、それを上手に使うツール、人など現在あるものの十分な活用を目指しました。
〔提案〕
- 義務教育での履修項目に、がんの普及啓発に関する内容を取り入れる
- がん患者への質の高い相談体制を確保するために、「がん相談員」の認定制度を創設し、その雇用を確保する
- がん診療連携拠点病院に設置されている、「がん相談支援センター」の相談員には、がん体験者の採用を促進する
グループ4:地域の好事例の育成・発掘と全国浸透
このグループに参加した行政担当者も患者たちの熱気に驚いていました。国会議員主導で情報の核をつくる構想です。好事例の全国均てん化のため、財政難の中でも予算も確保したいという結論になりました。
〔提案〕
- 早急に各都道府県にがん対策推進議員連盟等の設立を促し、各地域の好事例を学ぶことでがん政策に活かす
- 国のがん対策推進議員連盟が中心となり、地域の好事例の情報収集と発信のシステム(情報センターなど)を作る
- 好事例の全国均てん化のための予 算を確保する
(ライター・椎崎亮子)
当機構 がん政策情報センター センター長 埴岡健一より2日間の総括
とても充実した二日間でした。グループワークは実験的な試みでしたが、施策の立案も、一泊二日程度のワークショップによって、「やれば、できる」という自信が生まれたのではないでしょうか。勉強されたことを、持ち帰り、ぜひ使ってください。得た知識や活動を、自分の仲間、隣りの県の人に伝え、また県庁や医療者などに伝えてくだされば、サポートした者としてこれほど嬉しいことはありません。この仲間を維持して、がん医療対策を動かしていきたいと思います。また秋に開催したいと思います。ありがとうございました。(ライター・椎崎亮子)
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更新日:2010年01月25日