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がん政策サミット2014(最終回) 開催レポート

  「がんの教育・普及啓発」
 日本女子体育大学 体育学部 スポーツ健康学科 准教授 助友 裕子さん

患者の実体験が児童生徒と保護者を変える

 5年ほど前に、国立がん研究センターにおいて小学校高学年向けのがんの教育教材『がんのことをもっと知ろう』を開発しました。これを使っていくつかの地域で実践をしてきましたが、その中から2つ事例を紹介します。1つは東京都荒川区で、小学校と保健所、国立がん研究センターが協力して立ち上げた「がんのことをもっと知ろうプロジェクト」です。どこの部署ががん教育を担当してどういう内容を教えていくか、東京都荒川区保健所健康推進課の担当者と話しあいながらプロジェクトを進めました。2つ目の事例は、NPO法人がんサポートかごしまの三好綾さんたちが小学5・6年生を対象に実践されている「がん患者会によるいのちの授業」です。三好さんたちは民間の助成金を取り、私たちが作った副読本を使ってこの事業を始めたのですが、県教育委員会の教育長にあいさつに行くときに私たち研究者も同行し、三好さんたちが県内市町村教育委員会や実施校に足を運んで、いのちの授業を広げています。

 2011年の秋ごろ、子供たちへのがん教育という政策課題が2期目の基本計画に入りそうになったとき、ある自治体でのがん教育の影響調査をして政策提言を行いました。そこで最も問題になったのががん教育を担当することになった先生たちの負担の増大です。もちろん、がん患者を親に持つ子どもや小児がん患児といった最大限配慮すべき集団がいることは事実ですが、そのような児童生徒への配慮はすべて教員自身が抱えるからです。 そこで、教師の負担を最小限にするために、今年3月には教員向けの『がんのことをもっと知ろう(指導書)』を開発しました。東京都豊島区では、教育委員会が豊島区がん対策推進条例に基づく「がんに関する教育」を実施しているのですが、私たち研究者も協力し、教師向けにプラスアルファの指導書を開発したことが大きな学びとなったのです。

 患者関係者の方々に事前に好事例を挙げていただきました。荒川区がうまくいったポイントはプロジェクトチームを組織化した部分ですが、千葉県、奈良県でも、がん教育の検討部門の組織化がみられました。誰がやるか実施主体を明確化していたのが、千葉県、京都府で、鹿児島県のように患者会が関与しているのが千葉県、新潟県、岐阜県です。教材開発や研修会のような学校現場(教員)への配慮があったのは、東京都、新潟県、京都府でした。

 いろいろな地域での活動を通じて重要だと思ったのが、健康教育の位置づけの見直しです。現在の学習指導要領(保健科を想定)ではあくまで予防が主体で、病気になったらどうするか、病気をどう受け入れるかは入っていません。しかし、研究、実践としての試みはすでに始まっています。患者さんの生きざまを教育課程に組み込むと児童の心に響くということを現場の先生方が感じ始めました。埼玉大学教育学部附属小学校では、保健の病気の予防の単元が1年間の中で8時間あるうち、7時間目が終わった時点で総合的な学習の時間に患者体験談を聞く時間を入れました。自分の親に対してどういう健康パンフレットをあなたは提案するかという課題を出したところ、いままでは、「タバコ吸わないで」「がん検診に行ってね」というメッセージだったのが、それに加えて、「でもいつかは病気になるかもしれないから、そのときには僕がいるから大丈夫だよ」という優しいメッセージに変わりました。

 豊島区も最初は病気の予防を中心に取り組んでいたのですが、どのような病気も100%予防できるわけではない真実を伝えるべきということで、がんの患者の体験談を5分程度の動画で見せています。小児がんの患者さんも含めて、生活習慣が原因ではない人がいることを子供たちは学んでいくわけです。昨年度がんの授業を実践した小学校9校で児童とその保護者にアンケート調査を実施したところ、児童だけではなく保護者にも知識の変化がみられ、家族とがんについて話をしたことがある家庭も増えていました。授業という枠を超えて家庭、友達、学校の教室の中で学んだことが話題になる効果は大きいと思います。都道府県で子供へのがん教育を実施する際には、教育委員会、文部科学行政だけに任せるのではなく、大人への普及啓発と連携しながら対話ができたらいいのではないでしょうか。

 ディスカッション

 ディスカッションの中で出てきたのは、大人、特に検診を受ける機会が少ない家庭の主婦への啓発教育の問題です。助友さんは、米国・サンディエゴの主婦たちが、隣近所の人たちを誘って、公民館や教会でがんの健康教育をしている事例をこう紹介しました(スライド37~40)。「彼女たちは大学研究機関で研修を受けた後に自ら先生役になって12回のシリーズの授業をし、友達に授業に来てもらうだけではなく、毎回勉強したことを伝えるラーニングパートナーをつくってもらうことを継続しました。人から人へ情報が伝わっていくわけです。日本でも、子供ががん教育を受けた後に、ワークシートの宿題で親にコメントを書いてもらうといったようなことを実施すると子供から親へ情報が伝わるようでした。」
( 医療ライター・福島安紀 )


参考サイト
>> がんの教育・普及啓発ホームページ


  当日プレゼン資料: がんの教育・普及啓発 (2.7MB)


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(更新日付:2014年06月17日)

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