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【レポート】 世界のがん計画

はじめに
米国
オーストラリア
カナダ
英国
フランス
国際的ながん計画策定ガイドライン
各国のがん計画から


はじめに

 我が国において、2007年にがん対策基本法が施行され、「がん対策推進基本計画」が策定されてから3年余りが経過しました。5カ年計画の7合目をすぎ、次期計画に向けた見直しもはじまりつつあります。

 そもそも、国ががん計画を策定する意義はどのようなものでしょうか。世界保健機関(WHO:World Health Organization)の策定している「国家がん対策プログラム~策定・管理ガイドライン*1」によると、注意深くがん計画を策定し、優先順位を付けながら実施することで、たとえがん対策にあてられる資源の少ない国であったとしても実効性のあるがん対策を実施することができると書かれています。基本となるがん計画によって、その国のがん対策の質が左右されるといえるでしょう。

 では、より良いがん対策を実現するためのがん計画とはどのようなものが考えられるでしょうか。各国の状況を参考にしながら、考えていきたいと思います。

[関連サイト]
■がん対策基本法
archives.html#national

■がん対策推進基本計画
archives.html#plan

■がん対策推進基本計画 中間報告書(2.37MB)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/gan_keikaku04.pdf

■WHO 国家がん対策プログラム~策定・管理ガイドライン(英語)
http://www.who.int/cancer/media/en/408.pdf

[注釈]
*1 National Cancer Control Programmes Policies and managerial guidelines 2nd Edition


米国のがん計画

 米国では、1998年に米国保健社会福祉省(HHS:United States Department of Health and Human Services)管轄の疾患管理予防センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)により「全米包括がん対策計画*2」が策定されました。この計画は米国の各州でがん計画を策定するためのガイドラインとなることを意図しており、計画立案のプロセスを詳細に提示したり、実際に計画立案活動において使用できるツール資料集を付記したりと、計画策定のノウハウを提供しています(図表1)。

 特に、CDCが他機関と共同で提供するウェブサイトによる支援も充実しています。「Cancer Control P.L.A.N.E.T.」というサイトでは、各州でがん計画を策定するための5つのステップ(①優先事項の検討、②パートナー決定、③施策の有効性確認、④既存ツールの利用、⑤立案と自己評価)が順を追って示され、ステップごとに必要な情報がサイト上で取得できるように整備されています。また、このサイトでは、米国各州のがん計画や予算が比較できるようになっています。ちなみに、このサイトは好事例として他国でも応用されており、カナダではカナダ対がんパートナシップにより「Cancer Control P.L.A.N.E.T. CANADA」が、大阪府では大阪府立成人病センターがん予防情報センターにより「さあ、はじめよう!がん対策」というサイトが運営されています。

 では、州においてはどのようながん計画が策定されているのでしょうか。がん対策に定評のあるユタ州の「ユタ州包括がん対策計画2006-2010*3」は、大きく4つの分野(①アドボカシーと公共政策、②予防、③早期発見/がんについて知ること、④治療と生活の質)に分けて、合計19の目的が設定されています。それぞれの目的には、目標とそれに至る戦略が明記されており、目標が達成されたかどうかを評価する方法についても記載されています。

 また、がん計画の冒頭には、前の期のがん計画についての評価結果が記載されており、がん計画を実施した結果として効果の有無や目標までの達成度合いなどが視覚的に分かりやすく開示されています。

 がん計画の実施や評価を行うために、行政担当者や医療提供者、がんサバイバーなど、さまざまな立場の方が参加しているユタ州がん対策ネットワ―ク*4が組織されたことも記載されています。ます。

[関連サイト]
■米国 全米包括がん対策計画(英語)
http://www.cdc.gov/cancer/ncccp/pdf/Guidance-Guidelines.pdf

■米国 Cancer Control P.L.A.N.E.T.(英語)
http://cancercontrolplanet.cancer.gov/

■カナダ Cancer Control P.L.A.N.E.T.(英語)
http://www.cancercontrolplanet.ca/Home/tabid/58/Default.aspx

■大阪 さあ、はじめよう!がん対策
http://www.mc.pref.osaka.jp/ocr/cancercontrol/index.html

■米国 ユタ州包括がん対策計画2006-2010(英語)
http://ccplanet.cancer.gov/state_plans/Utah_Cancer_Control_Plan.pdf

[注釈]
* 2 Comprehensive Cancer Control Planning
* 3 Utah Comprehensive Cancer Control Plan2006-2011
* 4 Utah Cancer Action Network(UCAN)


オーストラリアのがん計画

 オーストラリアでは、2005年に連邦政府が「がんの国家サービスの枠組み*5」を策定し、がん対策の枠組みを提示しました。この中ではまず、オーストラリア政府が公衆衛生や研究、情報管理などの国が行うべき施策についての先導役となり、州や準州政府が公衆衛生のサービス提供や管理、医療提供者との直接的な関係の維持を行うと記されています。よって、最適な治療やケアの方針に基づいて、オーストラリア全土の患者さんが受けることができるサービスの水準が規定されていると言えます。

 枠組みは、大きく5つの分野(①がん発症リスクの低減、②がんの早期発見、③積極的治療期の管理とサポート、④積極的治療期以降あるいは次の治療期までのマネジメントとサポート、⑤終末期のケア)ごとに、合計19の介入すべきポイントが記されています。また、全体を通して優先すべき活動が8つにまとめられています。

 州におけるがん計画はどうでしょうか。ニューサウスウェールズ州(以下、NSW)の第2期目のがん計画となる「NSWがん計画2007-2010*6」においては、5つの優先すべき分野(①予防、②検診と早期発見、③がん医療サービスの向上と専門家教育、④研究、⑤がんに関連するデータや情報)それぞれに4つずつ、計20の施策が設定されています。各施策には目的や取り組みが明確に設定されており、評価の方法についてもあらかじめ設定されています。

 この計画は、州のがんに関する問題に取り組む中心的な組織であるNSWがん協会*7をはじめ、医療提供者や患者、研究者、行政担当者などさまざまな関係者によって議論され策定されています。計画策定に関連して8つのワークショップが開かれ、500人にのぼるがんの関係者が参加しました。

 NSW州においては、連邦政府に先駆けて2004年に第1期目のがん計画「NSWがん計画2004-2006」が策定されています。このように州における先進的な事例を参考にしながら、連邦政府のがん対策の枠組みが決定されたことも、注目に値するでしょう。

[関連サイト]
■オーストラリア がんの国家サービスの枠組み(英語)
http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/content/pq-ncds-cancer

■オーストラリア NSWがん計画2007-2010(英語)
http://www.cancerinstitute.org.au/cancer_inst/publications/pdfs/NSWCancerPlan2007-2010.pdf

[注釈]
*5 National Service Improvement Framework for Cancer
*6 NSW Cancer Plan 2007-2010
*7 Cancer Institute NSW


カナダのがん計画

 カナダでは、がん対策を推進するために連邦政府が創設した第三者機関、カナダ対がんパートナーシップ*8により2008年に「戦略的計画2008-2012*9」が策定されています。この計画が策定される以前の2006年に「カナダがん対策戦略:カナダがん計画*10」を策定する段階からがんサバイバーや医療提供者、がん関連機関担当者、連邦政府担当者などの様々な関係者が参画しており、ボトムアップ型で策定された計画であることが知られています。

 計画には、国として取り組むべき主要な分野を8つ定め(①予防、②スクリーニング/早期発見、③がん医療における基準、④がんのガイドライン、⑤患者視点に立った方針変更、⑥人的資源、⑦研究、⑧サーベイランス)、それぞれについて2008年から2012年に実施する具体的なアクションプランと、予想されるアウトカム(成果)が示されています。

 カナダは米国やオーストラリアと同様に、州政府ががん医療についての主たる責任を担う体制であるため、各州・準州において独自のがん計画が策定されています。国の計画にはがん計画の枠組みに関する記述があり、米国同様に計画を策定する州の担当者向けのウェブサイト「Cancer Control P.L.A.N.E.T. CANADA」による支援も充実しています。

 では、オンタリオ州のがん計画を見てきましょう。第2期目の計画となる「オンタリオ州がん計画2008-2011*11」では、大きな6つの目的(①がんの発症率の削減、②効果的なスクリーニングと早期発見によるがんのインパクトの削減、③効果的な診断や質の高いケアへのタイムリーなアクセス、④がんのすべての段階における療養生活の向上、⑤オンタリオのがん診療システムの実績向上、⑥がん研究の実現化)が設定されています。

 それぞれの目的には数値目標を用いるなどして具体的な目標が設定されており、現状や計画を実行に移す具体的なイメージについても詳しくまとめられています。また、がん計画には、当該年の2008年から11年の3年間に投入する予算についても明記されています。

 オンタリオ州においてがん計画がはじめて策定されたのは2004年でした。カナダにおいても、連邦政府に先駆けて州におけるがん計画の策定が進んだことがわかります。

[関連サイト]
■カナダ 戦略的計画2008-2012(英語)
http://www.partnershipagainstcancer.ca/sites/default/files/documents/reports/Strategic_Plan_2008_2012_Feb2008.pdf

■カナダ Cancer Control P.L.A.N.E.T.(英語)
http://www.cancercontrolplanet.ca/Home/tabid/58/Default.aspx

■カナダ オンタリオ州がん計画2008-2011(英語)
http://www.cancercare.on.ca/common/pages/UserFile.aspx?fileId=13808

[注釈]
*8 Canadian Partnership Against Cancer
*9 Strategic Plan 2008-2012
*10 The Canadian Strategy for Cancer Control : A Cancer Plan for Canada
*11 Ontario Cancer Plan 2008-2011


英国のがん計画

 英国では、2000年に政府により「英国がん基本計画*12」が策定されました。計画では11の分野(①がん分野の基本認識、②予防、③検診、④地域におけるがん診療の改善、⑤待ち時間の解消、⑥治療の改善、⑦ケアの改善、⑧人材投資、⑨施設・設備への投資、⑩研究投資、⑪がん戦略実施計画)ごとに計画がまとめられています。

 各分野においては背景や目標についてのまとめのみならず、具体的なアクションプランとその実施時期が明記され、使用する予算が明記されています。

 英国のがん計画は、国家主導で地域を巻き込みながら実施されています。計画に基づいて、地域ごとに病院、自治体、がん医療やケアの関係機関、ボランティア団体、患者団体などから成る、計画を実行に移すためのがんネットワークが構築されました。

 05年には会計検査院(NAO:National Audit Office)による中間評価がなされました。その結果を受けて12年までの「がん改善戦略*13」も策定され12年までの行動戦略が示されています。

[関連サイト]
■英国 英国がん基本計画(英語)
http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_4009609

■英国 がん改善戦略(英語)
http://www.cancer.nhs.uk/documents/cancer_reform_strategy/cancer_reform_strategy.pdf

[注釈]
*12 NHS Cancer Plan
*13 Cancer Reform Strategy


フランスのがん計画

 フランスでは、2009年に「がん計画2009-2013*14」が策定されました。計画は大きく5つの分野(①研究、②観察、③予防・スクリーニング、④患者のケア、⑤がんと共に生きる人生)に分けられています。それぞれの分野において計30の施策が設定され、その下には計118項目にのぼる具体的な事業が記されています。

 それぞれの評価基準には具体的な目標設定が明示されています。また、活動については主たる実施者(組織)が明記されており、誰が何を実施するのかその責任の所在が明らかになっています。また、計画には、投入される予算についても明記されています。

[関連サイト]
■フランス がん計画2009-2013(仏語)
http://www.e-cancer.fr/plancancer-2009-2013

[注釈]
*14 Cancer Plan 2009-2013


国際的ながん計画策定ガイドライン

 国レベルで実施するがん計画について考える際、WHOが2002年にまとめた「国家的がん対策プログラム~政策・管理ガイドライン」も参考になります。このガイドラインでは、国のがん計画の国際基準となる骨格が示されています。

 WHOによると、がん計画を策定するプロセスは次の4つのステップに従うのがよいと示されています。

①がんに関する問題の重要度を査定する 

②測定可能な目標を設定する

③がんの予防や対策のために可能な戦略を練る

④がん対策の活動について優先順位を付ける

 また、WHOは「がん対策~知識から行動へ~効果的なプログラムのためのWHOガイド 計画編*15」を発行しています。ガイドでは、各国のがん計画策定事例とともに、がん計画策定における3つのステップ(①現状を把握する、②到達点を設定する、③達成方法を考える)別に順を追って具体的な方法とツールが示されています(図表2)。

 がん克服のために国際的に連帯し活動を行っている民間組織、国際対がん連合(UICC:Union for International Cancer Control)による「非政府組織のための国家がん対策計画策定の資源*16」も参考になります。

 このレポートでは、非政府組織(NGO)ががん計画を策定する際にポイントとなる5つのセクションごとにガイドラインが策定されていて、それぞれにチェックリストが記載されています。このチェックリストは、国のがん計画を策定する際に、状況を把握し、道筋を立てる際に役立つでしょう(図表3)。

[関連サイト]
■WHO 国家がん対策プログラム~策定・管理ガイドライン(英語)
http://www.who.int/cancer/media/en/408.pdf

■WHO がん対策~知識から行動へ~効果的なプログラムのためのWHOガイド 計画編(英語)
http://www.who.int/cancer/modules/Planning%20Module.pdf

■UICC 非政府組織のための国家がん対策計画策定の資源(英語)
http://blogs.globalink.org/uicc/templates/uicc/pdf/nccp/nccp.pdf

[注釈]
*15 Cancer Control Knowledge into Action WHO Guide for Effective Programmes , Planning
*16 National Cancer Control Planning Resources for Non-Governmental Organization


各国のがん計画から

 さまざまな国や州のがん計画、そして国際的ながん計画策定についてのガイドラインを通して見えてきた、がん計画を策定する際のチェックポイントをあげてみます。

・戦略的な計画となっているか
計画が戦略的に策定されているか、エビデンス(根拠)に基づき論理的に策定されているか。計画の目的に到達するために具体的な目標が示されているかも重要です。可能なかぎり測定可能な数値目標を設定することが求められるでしょう。

・PDCAサイクルにのっとっているか
計画(P:Plan)から実施(D:Do)、モニタリング・評価(C:Check)、改善(A:Act)といった、循環して改善されるプロセスが明確に定義され計画の中に組み込まれていることが重要です。

・好事例が参考にされているか
米国やオーストラリアのがん計画では、がん計画の好事例をもつ州をモデルとして参考にし、計画が策定されています。このように、地域における好事例を活かして計画を策定していくことも有意義です。

・包括性があるか
がんの予防から治療や治療後の生活、身体のケアから心のケア、患者へのサポートから家族へのサポートまで、包括的な計画になっていることが望ましいでしょう。

・協力体制が具体的になっているか
さまざまな関係者の協力体制が明確に示され責任の所在が明らかになることでより実現性の高い計画となります。

・財源や資源について練られているか
現状を把握したうえで、計画にかかる予算が見積もられているか、新たな資源の投入と既存資源の活用の両面が考慮されているかといった点も重要になります。

 それぞれの国には固有の特徴があり、がん計画も様々です。どこか一つのがん計画が優れているという訳ではなく、よいがん計画とは何かを考える際に参考にできる点が多々あると考えられます。チェックポイントごとに、我が国のがん計画やお住まいの都道府県や市区町村のがん計画を、ぜひ確認してみてください。

 例えば、全米包括がん対策基本計画やWHOのガイドラインなど、計画立案の枠組みを自分たちの計画を策定する際に参考にし、活用するのも良いでしょう。国の計画だけではなく、都道府県や各地域において実施する計画を考える際にも役に立つのではないでしょうか。

 最後に、計画は策定して終わりではなく、実施し、評価し、改善していくことが重要です。どんなに素晴らしい計画が策定されたとしても絵に描いた餅になってしまっては意味がありません。各国の計画の良い点を取り入れながら、自分自身の国や地域の状況に応じてがん計画を策定していくことが重要です。

更新日:2011年01月18日

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