がん政策サミット2009秋 10月4日のレポート
都道府県における予算編成について~山口県の事例から~
厚生労働省健康局総務課がん対策推進室 前室長 前田光哉さん
国と県の予算作成の流れを知ろう
重点項目に入れてもらうことが重要
都道府県の予算編成はどういうプロセスで作成されているのでしょうか。がん対策推進室前室長の前田さんが、かつて健康増進課長を務めた山口県を例に予算策定のスケジュールを説明し、患者団体などがどの時点で働きかけていったらよいか解説しました。
国の予算は、10月15日までに来年度予算の概算要求を出し直し、その後財務省との調整、年内に政府原案の予算案、年度内に予算を成立させるという流れです。予算成立後は、国が予算をどういったものに使うのか、都道府県や政令指定都市などに対して実施要綱を出し、それを受けて県は事業計画を出すことになります。
県の予算は、まず、8~10月に部内検討が行われます。そして、11月ごろ、知事トップダウンで総合政策局などを中心に予算の重点項目を決定していきます。この知事が決める重点項目については、予算もかなり増額されます。それ以外の項目は単年度修了になるなど、予算のメリハリがつく形になります。
そして、財政課との調整、2月上旬ぐらいに知事の復活要求があって、県議会に予算案が出されます。2~3月に議会で議論して予算が成立するという流れです。
県議会にアプローチする手も
部内検討にあたるまでに、どういったものを材料として予算を組むかですが、山口県の場合は、PLAN(施策・事業の企画立案)、DO(事業実施)、CHECK(施策などの評価)、ACTION(施策の改善)というマネジメントサイクルの中で予算を作っています。評価の段階では、250万人の県民から無作為抽出した3,000人を対象にした意識調査を行います。県民の声も含めて事業の優先順位に入れ込んでいるのが山口県の特徴です。
タイムスケジュールで申し上げますと、重点施策を決めるときに知事サイドにいろんな角度からアプローチをするということが重要です。具体的には、県議会などでの代表質問ですとか、総合政策局に対して健康増進課なり健康福祉課などが取り組みをする中で重点施策が決まっていきます。患者団体が都道府県の予算に関連した意見書を出すとしたら、たとえば、県議会に請願という形で意見書を出すなどツールはいくつかあるのではないでしょうか。 (ライター 福島安紀)
都道府県がん予算を動かす どんな予算を増やす?
当機構 がん政策情報センター センター長 埴岡健一
都道府県へがん対策予算を提案しよう
他県の例も参考に役立つ予算に
都道府県のがん対策予算としては、どのような事業を組むと効果的なのでしょうか。当機構では、都道府県が国に出しているものと同じ形式で40府県の平成21年度「がん対策」予算を収集。当機構 がん政策情報センターの埴岡が、そのデータ集などをヒントに、患者・市民が都道府県にがん対策予算を具体的に提案する方法を探りました。
県の予算を動かす材料は大きく2つあります。一つは、がん対策推進協議会のワーキンググループの「元気が出るがん対策予算」です。70施策のうち半分は都道府県でも実施できる内容です。例えば、基金を作るとか、医療者と患者・市民が行う普及啓発事業などは、県レベルでモデルを示しても構わないわけです。
もう一つは、40府県から本機構が集めた「平成21年度『がん対策』予算参考データ集」です。これは県が国に提出しているものと同じ内容で、分野別に、たとえば、患者への情報提供・相談事業などの内容や金額を比較できます。
県のがん対策予算には、県単独事業と国の予算を活用しているものがあります。国の補助メニューの活用度も見てみましょう。県単独事業は前向きな新規事業が多いと考えられます。ただ、新病院の建設やハードウエアの整備があるかないかで予算総額が大きく変わりますので、それらはいったん省いて見る必要があります。
県がモデルを示して国に広める手も
予算データ集を見て、結果が出ること、本当に役立つのは何か、県のアクションプランと整合する事業はどれだろうかと考えてみてください。そして、都道府県に帰られて、他県でやっているこれとこれはうちでやりましょうという提案書を作っていただきたいと思います。
例えば、相談支援事業も大事ですし、標準治療が実施されているかも大切です。欧米では、ベンチマークセンターを作って各病院の治療内容がわかる“がん診療の見える化”が進んでいます。沖縄県がん診療連携協議会では県へ「がん診療ベンチマーキングセンターを作ってほしい」との要望を出したところです。
県に提案書を出すときには「○○県はこういう事業に○万円つけています」と他県の例を提示すると説得力がありますし、議会、知事にも話をすると進展しやすくなるはずです。県のがん対策予算のワーキンググループを作ってプロセス自体を変える手もあります。都道府県がよいモデルを示して国に広めていくという気概も持ちましょう。予算を通して、がん対策が良くなり均てん化が進めばと思います。 (ライター 福島安紀)
アドボカシーでたばこ政策を変える!
国立がんセンター研究所たばこ政策研究プロジェクトリーダー 望月友美子さん
がん死亡率低下にはたばこ政策が不可欠
都道府県でも市民がアドボカシー活動を
がんの3割はたばこが原因です。しかし、日本では、イギリスやアメリカに比べ、たばこ対策が大きく遅れ、国民の命が軽視されています。たばこ政策研究に取り組む望月さんが、日本で、たばこによる被害とがん死亡率を減らすにはどうしたらよいかについて講演しました。
いままでのたばこ政策というのは、たばこによる利益や権益と国民の命を天秤にかけたときに、命の方が軽視されてきたという状況です。
私たちのプロジェクトのビジョンは、回避可能な唯一のがんの原因であるたばこから、フリーになった社会の実現です。たばこコントロールモデルは感染症制圧モデルと同様、ポリシーによって喫煙や受動喫煙を減らし、疾病や死亡数を減らす、これにつきます。
しかし、たばこ産業からの市場圧力は非常に大きく、巧妙です。命を守るたばこ政策への転換には、たばこ産業と拮抗するような力をもった製薬会社などの産業や市民など、さまざまなステークホルダーが関わって取り組んでいく必要があります。
消費量半減は実現可能な目標
国際的には、日本を含む167の国と地域がWHOの「たばこ規制枠組条約」を批准しています。条約の基本原則のなかで一番重要だと思うのが、市民社会の参画です。市民が政策実現のプロセスから参加していくことが重要です。
日本では、2000年には15歳以上の国民1人当たり3,000本吸っていたのが、現在は約2,000本に減っています。何の効果かを分析するのは難しいのですが、各地に広がる路上禁煙条例、健康増進法、がん対策基本法や、来年施行される神奈川県受動喫煙防止条例などの影響かもしれません。医師会やがん関連学会などさまざまなNGOが声明を出したことも大きいと思います。行政の政策と市民社会からのアクションがあいまって、日本で急速にたばこ離れが起こっていると言えるのではないでしょうか。
最もわかりやすい数値目標は、喫煙率や消費量です。2000年からの半減では1人1,500本となりますが、ちょうど戦後たばこの流行が始まった初期値に相当し、また、既にアメリカやオーストラリアでは到達していて、結果としてがん死亡率が1990年代から減り始めています。
ゴールは、2030年までにたばこ流行を終焉させることです。受動喫煙の防止に関しては、神奈川県の動きによって地方議員の連絡会が全国に広がりつつあります。市民社会からの行動計画とシナリオで時計の針を逆戻りさせない状況を作っていきましょう。 (ライター 福島安紀)
欧州臨床腫瘍学会(ESMO)スタディツアーの報告
グループ・ネクサス副理事長 片山環さん
高知県がん患者会 一喜会会長 安岡佑莉子さん
NPO法人広島がんサポート理事 佐々木佐久子さん
患者アドボカシーに国境も県境もない
日本の患者団体も連帯しよう
国や府県のがん対策推進協議会委員などを務める3人が、2009年9月20~27日、当機構のスタディツアーでドイツ・ベルリンを訪れました。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)に参加してヨーロッパの患者団体の代表たちと交流を深め、シャリテ大学病院なども訪問。3人を代表して、片山さんがスタディツアーの収穫を報告しました。
ESMOでは、患者団体の人たちの発表セッション、ペイシェント・アドボカシーが2日間に渡って学会のプログラムに入っていました。
特に印象に残ったのが、資金調達について発表したキプロスの乳がん患者会の方の話です。「不況下で資金調達は難しいが、公共機関、企業、自分たちでも稼ぐなど、複数の手段を持つことが大切です。患者会同士が共通のミッションを持ち、ネットワークを作って議員たちに働きかけ、メディアの協力を得ましょう」。
ヨーロッパの中では、国によって経済格差や言葉の壁があります。それでも、ヨーロッパ乳がんの会、ヨーロッパ男性がんの会など、国を超えて連帯した患者組織が存在しています。
別の日に、16団体の連合体であるドイツがん協会の代表の方にも会いました。「そりの合わない患者会もあります。それでもまとまって行動する必要があります」と話し、日本と同様の問題を抱えている面も発見しました。
ベルリンの壁のように、壁は大きくても、いつかは壊れて過去のものとなります。日本の患者会も一つにまとまりましょう。 (ライター 福島安紀)
鳥取県のがん対策予算の特徴
鳥取県福祉保健部健康政策課 中川善博さん
2006年度以降がん対策予算が急増
患者会同士の交流を県が支援
2007年度の100万人当たりのがん対策予算が、島根県に次いで多かったのが鳥取県では、がんの死亡率を減らすために、どのような事業を行っているのでしょうか。今年度のがん対策を中心に、健康政策課の中川さんが発表しました。
鳥取県のがん対策予算は、年度によって変動はありますが、国の事業でマンモグラフィが導入された2006年度を契機に増えているところです。
今年度の鳥取県のがん対策の関係予算ですが、特に力を入れているのが、がん検診受診率の向上、がん患者団体の活動支援、緩和ケアの充実です。
受診率を何とか向上させようと考え、休日がん検診支援事業などを実施したところ、4分の3以上の市町村が休日検診を実施しました。また、がん患者団体活動の支援も重要です。9月に島根県で開かれた全国がんサロン交流会に24人の参加者を募り、その会場内で、県内の患者会同士の意見交換を行いました。これから島根県等先進県の取組なども参考にがん対策を推進していきたいと思います。 (ライター 福島安紀)
島根県のがん対策予算の特徴
島根県健康福祉部医療対策課 小豆澤伸司さん
工夫次第でがん予算は拡充できる
ふるさと納税や実行委員会方式の活用を
2007年度の人口100万人当たりのがん対策予算(実績)で、全国トップの金額だった島根県。地方財政が厳しい中で、同県は、どのように予算を組み立てているのでしょうか。医療対策課の小豆澤さんが、がん対策予算を拡充する方法を指南しました。
島根県では、がん対策は、いわゆる重点化枠(重点項目)ではなく、毎年、前年比20%カットしなければならないシーリング枠に入っています。そのため、工夫をしながら、がん対策予算の確保を図っています。
たとえば、ふるさと納税である「ふるさと島根基金」を活用し、がん関連図書の整備や検診啓発パネルの作製にあてました。また、県単独の緊急雇用事業を活用して、相談支援センターなどで新たに臨時職員を雇う費用として活用してもらっています。
それから、患者さんと医療者が相互理解を深める「がん患者塾」を今年から始めましたが、実行委員会を立ち上げ、拠点病院や県立大学などからも経費を負担してもらいました。県予算額は80万円ですが、事業費が約200万円になったので、実行委員会方式も一つの方法です。
やはり、がん対策推進条例が、患者活動支援に県が支援する根拠になっています。 (ライター 福島安紀)
※肩書きは当時のものです
更新日:2009年11月30日





