第69回日本癌学会参加レポート
日本癌学会学術総会で七位一体の議論を初めて実現 患者代表にもがん研究に関する提言求める
がんの基礎研究を中心とした分野の学会である「日本癌学会」(理事長:野田哲生・癌研究会癌研究所所長)は、2010年9月23日、大阪府大阪市で開催した第69回学術総会の特別企画として「今がん研究に求められること―がん研究に関する提言―」を開きました。医学研究の発表が中心の学会総会で、患者・家族、医療者、国会議員、行政、製薬会社、マスコミ関係者が一堂に会し、がん研究について対等な立場で議論するのは初めてであり画期的。患者・国民との協働を目指した「大阪宣言2010」を採択し、がん治療の発展に欠かせないがん研究の推進する応援団結成へ大きな一歩を踏み出しました。
特別企画では、まず、同学会理事長の野田哲生さん、国立がん研究センター東病院院長の江角浩安さん、大腸がんのサバイバーで日本対がん協会常務理事の関原健夫さんが基調講演を行いました。患者・支援者の立場から講演を行った関原さんは、欧米では患者・支援者や医師たちがボランティア活動を行って集めた多額の募金が研究者への助成に使われていることを紹介し、「なぜ学会は、がん研究についてもっと積極的に情報を発信しないのか。患者パワーは予想外に大きい。患者の力を得て、日本にがん研究の応援団を作るべき」と患者・支援者との連携の必要性を訴えました。
がん研究費については、同学会理事長の野田さんと関原さんが、厚生労働省、文部科学省、経済産業省それぞれ縦割りで予算が計上されいくら使われているか不明であり、国家的な戦略がない問題点を指摘。議論には、3省のがん研究関連課の担当者も参加しており、厚生労働省がん対策推進室の鈴木健彦さんは、「目に見えるような形で3省の連携を進めていかないといけない。もしかしたら、がん対策推進協議会が連携の場になるのではないか」と述べました。
議論の中で、目立ったのは、各腫瘍関連学会や大学関係者から出された「ぜひ、研究資金のサポートをお願いします」といった研究費や人材育成費の増額要望です。しかし、文部科学副大臣の鈴木寛さんは、「陳情はもういらない。学会がこういう知恵を出しますということなら受けます。私は、この国の政策決定過程自体を変えたい。エビデンスに基づいたグッド・プラクティスを作るべき」と具体的な提案を求めました。
がん研究の必要性の見える化とリーダー養成が必要
この特別企画には、指定発言者として、関原さん以外にも6人の患者・患者会代表・一般市民が参加しました。特定非営利活動法人「がんと共に生きる会」副理事長の海辺陽子さんは、研究予算増を求める発言に対し、「サラリーマンの生活はギリギリの状況です。たとえば、海外に人材が流出せず国内で研究者を育成すると、どういうよい面があるのか。国民が税金をがん研究費にかけてもよいと思えるように分かりやすい説明が必要」と強調しました。
では、研究者が患者や国民に理解を求め、協働でがん研究の推進を図るにはどうしたらよいのでしょうか。
乳がんのサバイバーで読売新聞東京本社社会保障部記者の本田麻由美さんは、欧米のがん関連学会の先進事例に触れ、「がん研究の応援団を作るには、患者・支援者を中心にリーダーをたくさん養成するとよいのではないでしょうか」と提言。米膵臓がん患者支援団体の日本支部「パンキャンジャパン」ディレクターの眞島喜幸さんも、米国でリーダーシップトレーニングを受けた体験を話し、「最後はワシントンDCへ行って、アドボカシー(政策提言)活動をすることがプログラムに組まれていた。乳がんの学会なども、毎年たくさんのリーダーを育成し、リーダーが地域に帰ってまた同じような話をするよい循環が出来上がっている」と話しました。
また、卵巣がん体験者の会スマイリー代表の片木美穂さんは、婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構の医師と連携して未承認薬の早期承認にこぎつけた経験から、次のように発言しています。
「先生方は、患者会を怖がっているように思います。いろいろな患者会の人と会って先生方からアクションを起こして患者会を有効利用していただけたら、いくらでも協力します」。
特定非営利活動法人グループネクサス理事長の天野慎介さんは、患者・患者会代表・一般市民の意見の総括として、「ソーシャルムーブメントを起こすことが大切なのではないか」と強調。具体的には、①がん研究について分かりやすく説明し、広く社会の理解を得ること、②継続的な患者アドボケート・トレーニングプログラムを組むなど患者も含めた各ステークホルダーの協働――の2点を求めました。
七位一体の会を継続してデータを集め政策提言を
一方、研究資金としては企業の協力も不可欠です。大手製薬会社の加藤益弘さんは、「欧州では、医薬品になるかなり前の段階の基礎研究に製薬会社が共同で出資している。日本でも、われわれ製薬会社が何をできるか考えていきたい」と協働に前向きな姿勢を示しました。
この特別企画が画期的だったのは、単に要望書を作成して厚生労働省に提出するというこれまで多くの学会が取ってきたやり方から一歩進んで、政策を動かす3人の国会議員も同じ土俵で議論に加わったことです。参議院議員(自由民主党)で、医師・弁護士である古川俊治さんは、「日本で経済発展が可能な分野は環境と医療しかない。日本発の医薬品を開発していくことがいかに大事か。5年10年先を見据えた学会の姿勢を示すことが重要」と学会に注文をつけました。
さらに、参議院厚生労働委員で医師の梅村聡さんは、「医療崩壊が10~20年先に来るのは、研究人材の分野ではないか。しかし、国民から見たら学会は雲の上の存在で分かりにくい。共通言語のなさがネックであり、この共通言語を作る作業を是非やっていただきたい。今日の新しい会を1回きりで終わらせるのではなく、これを研究テーマの1つとして継続していかないといけない」と提案。鈴木寛さんは、日本産婦人科学会や日本外科学会がデータを出して診療報酬アップにつなげた例に言及し、「今日は歴史的な日になった。新たなコミュニティを作っていきたいし、医療政策決定プロセスに関する科学を立ち上げる必要がある」と繰り返しました。
最後に、座長の一人で同学術総会会長の門田守人さん(大阪大学理事・副学長)が国民との協働を目指した「大阪宣言2010」を読み上げ、全会一致で採択されました。門田さんは、「具体的に明日から何をするかはまだこれからだが、これで終わっては意味がない」と話しており、学会が、患者・支援者を含めたがん研究の応援団結成へどう舵を取るのか、次なる一手が期待されます。 (ライター 福島安紀)
[関連サイト]
第69回 日本癌学会
http://www.secretariat.ne.jp/jca2010/
更新日:2010年10月13日






