沖縄現地レポート(1)
広がる沖縄版患者サロン、「ゆんたく広場」 「語りの場」と「患者会」の役割兼ねる
がん対策が全国でも遅れている沖縄県で、2008年9月に発足した「県がん診療連携協議会」。対応の遅い行政に代わり、地域の先導役として着実に実績を重ねている。会に後押しされ、活動の輪も少しずつ広がってきた。
沖縄県のがん医療の向上と質の高い政策の実現を目指し、08年9月に発足した県がん診療連携協議会。09年度第2回会議が9月4日、琉球大学医学部付属病院で開かれ、患者や関係者が傍聴席で見守る中、約3時間にわたって様々な課題を審議した。その協議会に先立ち、がんに関わるさまざまな人々が自由に思いを語り合う「県がん患者ゆんたく会」も開かれ多くの人が触れ合った。
「ゆんたく」とは、沖縄の方言で「おしゃべり」の意味。真面目で堅苦しい会ではなく、おしゃべり感覚で気軽に集まり、どんな意見でも交わし合う場として、協議会メンバーで県がん拠点病院でもある琉大付属病院がんセンターが、09年6月にスタートさせた。4回目の開催となったこの日は、会の最後に参加者の中から会長や役員を選出し、規約も承認。さまざまな立場の人々が幅広く参加する患者会として、正式発足の運びとなった。
主催する同センター長の増田昌人さんは「がんは、種類によって患者の状態がみんな違うため、がんの種類を超えた患者会の発足はなかなか難しい面もあります。まずはだれもが気軽に集まり、何でも話せる場をつくるところから始めたかったんです」と語る。
地域社会の狭い島しょ県沖縄では、医師に遠慮して言いたいことや聞きたいことを我慢したり、がんであることを家族や知人にも知られたくない、との思いを持つ人々も多い。乳がんや喉頭(こうとう)摘出で声を失った方など、特定がんの患者会はあるものの、がん種を特定せず、またさまざまな立場の人間が横断的に集まって、意見を語り合う大きな組織ができたのは初めて。がんと向き合う、最初の一歩とも言えよう。
心の悩みをはき出し、いろんな立場から本音を打ち明けられる場ができたことは、患者・家族側、医療側のどちらにも、いい刺激だ。「ゆんたく会を上部に置いて、その下に各がん種ごとの集まりが、今後さらに増えていけばいいと考えている」と増田さん。
会には毎回、患者や家族、遺族だけでなくボランティアや県内の医療従事者、看護学生など30~50人が集まり、予定された時間のギリギリまで語り合っている。参加者からは「こんな場がほしかった」「同じ思いを抱えている方々と話すことで力になる」など感謝、評価の声も高い。
那覇だけでなく、名護市やうるま市など、他の地域での開催や、他の医療機関から見学を兼ねて参加する関係者も増えるなど、輪は確実に広がっている。
第2回ゆんたく会に参加したある病院関係者は「うちの病院でも開催したいと、院内で話し合っている。こういった場を、県内にどんどん増やしていかないと」と語る。病院という閉ざされた環境だけでなく、町の中や地域の中にも気軽に立ち寄り、話せるサロンもつくりたいと、意欲的だ。
沖縄は、08年4月にスタートした特定健診で保健指導対象者が全国で唯一20%を超えた、日本一の肥満県。「長寿県崩壊」への危機感が広がる中、メタボリックシンドローム対策が先行し、がんに対する意識は行政、県民ともに低い。2人に1人ががんにかかると言われる今の時代でさえ「がんは他人事」との感覚で捉える人は多い。
ある医療関係者は、患者サロンの地域への設置について行政担当者と話した際に「がん患者は病院にいるのであって、地域にはいないだろう」と言われ、あ然としたという。あらゆる面でがんに対する動きの鈍い沖縄で、医師らが率先して協議会を動かし、拠点病院を中心に「ゆんたく」から始まる患者の輪が広がっていることは、大いに歓迎すべきだろう。
(ライター 儀間多美子)
更新日:2009年11月02日





