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UICC(国際対がん連合)「世界がん会議」参加レポート

世界会議の場で、がん対策の最新動向を学ぶ

2010年8月、シンセン(中国)において、国際対がん連合(UICC:Union for International Cancer Control)主催の世界がん会議(2010 world cancer congress)が開催され、世界92カ国から3000人を超える来場者が集まりました。本会のテーマである「予防可能なことを予防し、治療可能なことを治療する~その仕組みの実現に向けて~(Preventing the preventable.Treating the treatable.Systems to make it happen.)」を目指し、世界中のがん対策関係者が、日頃の研究成果や好事例を発表のうえ、熱い議論を交わしました。市民医療協議会では、本会議に参加し学習する機会として「UICC研修ツアー」を実施いたしました。市民医療協議会の杉山がその模様をレポートします。

 2010年8月18~21日、国際対がん連合(以下、UICC)主催の世界がん会議(2010 world cancer congress)が、シンセン(中国)にて開催されました。

 日本医療政策機構 市民医療協議会では、海外のがん対策の事例や実情を学ぶことを目的とする「UICC研修ツアー」を企画し、国および都道府県のがん対策推進協議会の患者関係委員の方々を対象に参加者を募集しました。たくさんのご応募を頂いた結果、天野慎介さん(国のがん対策推進協議会委員)、田口良実さん(秋田県がん対策推進協議会委員)、納賀良一さん(島根県がん対策推進協議会委員)の3人が選抜メンバーとして参加することとなり、市民医療協議会の杉山が同行しました。

 UICCは1933年に結成された民間組織で、現在105カ国より335の組織が加盟しています。がん克服のために国際的に連帯し、主にがん研究や、がん知識の普及、統計の作成、世界共通のがん診断法の設定など、さまざまな活動を展開しています。

 このUICCが主催する国際がん会議は、(2008年以降)2年に一回開催されています。がん対策に取り組む世界の人々、とりわけ医療者や研究者、政策立案者、患者アドボケートや患者支援者などが一堂に会し、世界のがん対策や方法論の事例を共有しあいます。つまり、この会議は世界におけるがん対策の最新動向を掌握できる場だと言えるでしょう。

 21回目である今回は、中国のシンセンで開催されました。本会議のテーマである「予防可能なことを予防し、治療可能なことを治療する~その仕組みの実現に向けて~」に沿って、がん予防やたばこ対策の強化、がん治療、緩和ケア・支持療法、患者のQOL向上、患者支援団体や市民の参画についてなど、さまざまな切り口の講演が発表されました。会場には、3000人以上の参加者が集まり、熱心に講演に聞き入ったり、お互いに交流を図っていました。

世界で展開されているがん対策をめぐる話題

 今回、私たちが参加したセッションは以下の通りです(表)。これらの聴講を通して、世界でがん対策がどう展開され、また患者参画がどのくらい浸透しているのかを確かめることを目指しました。会議前の抱負として、「がん対策の均てん化にどう寄与できるか考えたい」(天野さん)、「日本とは目線の異なった対策やアイデアを吸収したい」(田口さん)、「きっと、すごく進んでいるのであろう世界のがん対策から、日本のがん対策を見直してみたい」(納賀さん)といったコメントが寄せられました。

 UICC自体の内容のご紹介については、「UICCレポート」をご参照頂くとして、ここでは患者委員の方々がどのような講演を聴講したかについて簡単にご紹介します。

 1日目(2010年8月19日)「基調講演:体制変化の為の知識データベース(PLENARY SESSION: Knowledge base for system change)」では、がんを制圧していくには、国際的ながん対策が必要であると示唆し、「UICC世界がん宣言(11の個別目標から成るもので、20年までにがんの蔓延を抑制することを目指すもの)」や「WHO ACTION PLAN 2008-2013(非感染症つまり慢性疾患における予防と制御の世界的戦略を示したもの)」について紹介されました。このうち「がん登録」をテーマとした講演では、「がんの傾向を明らかにしたうえで計画を策定し、世界レベルでがん対策を考えていくことが重要。とりわけ計画策定にあたっては、がん種差・地域差・世代差・治療法などを考慮すべき」と言及されました。

 同じく1日目の「QOL調査:患者の自己評価および行動根拠に関する調査(Research in quality of  life-patient reported outcomes and behavior evidence<PROBE>research)」では、EORTC(The European Organisation for Research and Treatment of Cancer)によるQOL調査の報告がされました。EORTCとは、欧州を拠点とする国際的ながん対策調査の研究グループで、たくさんの臨床試験を手掛けています。1993年にQOL部門が創設され、QOL調査や、その調査結果にどういった付加価値をつけるかなどについて研究がされています。講演では、近年実施したQOL調査の進捗や、同調査における今後の課題などが紹介されました。患者のQOL調査については、これまで医療者の客観的判断による調査発表が多かったのですが、本調査のように患者の自己記入による研究が取り上げられるようになってきたのは特筆すべき点でしょう。

 2日目(10年8月20日)の「基調講演:体制変化の為の枠組み(PLENARY SESSION: Frameworks for system change)」では、調査や診療における国際連携の可能性について取り上げられました。講演では、国際連携によって得られる効果として“調査結果を迅速に得られる、調査費用をシェアできる、重複を避けられることにより不要な調査がなくなる”などを挙げ、さらなる国際連携の強化を訴えました。また同日の「国際政策における市民参画を探る:WHOとUICCの協働(Seeking civil society involvement in global policy, The WHO - UICC partnership)」では、医療政策における市民参加の必要性や事例について発表されました。WHOから発表されている「国家的がん対策プログラム(NCCP:A National Cancer Control Programme)」では、医療政策のプレーヤーとして、“政府、非政府、民間、専門家”が重要な役割を担うべきであり、とりわけ非政府は、アドボカシー、がん登録、調査、予防、治療、緩和ケアなどの分野で重要な役割を持つと記載されていると紹介しました。

 また、「Actions for system change: advocacy, organisational branding and fundraising(組織変化のための行動:アドボカシーにおける組織ブランディングおよびファンドレイジング)」では、アドボカシー組織のブランディングとファンドレイジングについて、民間企業のマーケティングを参考にするといったユニークな講演、またメディア教育により得られた効果についての講演などが発表されました。

 3日目(10年8月21日)の「基調講演:体制変化の為の行動(PLENARY SESSION: Actions for system change)」内の講演では、疼痛緩和には非常に多くの人口ニーズがあることが統計上の数値で示されました。またWHOの疼痛ケアの戦略や世界の疼痛治療(モルヒネ消費量)格差状況が紹介されました。

 

世界最前線で積極的な質問や提案を

 総じてみると、研究者の発表がメインだったこともありQOL調査や疼痛緩和などについても比較的データ分析やシステム論が中心になっていたことから、これをいかに患者主体のがん医療・がん対策に発展させていくかが、次第に私たちの最大の関心事となりました。「ただ聴講しているだけでは変わらない」「これをどう持ち帰って活かすか」といった焦燥感がみなぎってきたころ、田口さんの質問の挙手を皮切りに、皆さん世界のがん研究の最前線で、非常に積極的に質問や提案を投げかけていきました。

 田口さんは19日の「がん予防における調査、実践、そして政策改革(Research, Practice, and Policy Innovations in Cancer Prevention)」において、「米国では、がん経験者である議員が先頭に立って、がん対策の州法を制定した事例などないか」と質問したのに対し、「米国ではロビイストの力が強いので、市民の発案であれば、議員がそれをとりあげ、必要な事項であれば州法制定されることは珍しくない。このため議員のがん経験の有無は重要ではない」と回答されました。これを受け、田口さんは「さすが市民主権の国だなと感心した」と感想を漏らしていました。
 

 また天野さんは、20日の「基調講演:体制変化の為の知識データベース(PLENARY SESSION: Frameworks for system change)」で、「日本では、個人情報保護法が先に成立したこともあり、がん登録が進んでいない。どのようにすればよいか」と質問し、「個人情報保護法が先に出来てしまったら、たしかに大変だ。お気の毒。しかし、がん患者などの当事者が、『がん対策を進めるためにはがん登録が必要だ』と訴えていくことがカギになるだろう」との回答を得られ、帰国後の新たな活動の方向性を見出していました。

 そして納賀さんは、21日の「がんが人々に与える影響とリスクの組織リーダーによる管理を支援する(Supporting system leaders in managing the impact and risk that cancer represents to populations)」のセッションにて、演者の一人から「患者にとって痛みはついて回る。それなのに痛みのスケールがアバウト過ぎる」という話が出たことを受け、「スケールについては、痛みをもっと細かに切り分けた質問票を作成し、その数値をカルテに書き込めるようにすればよい。日本にそのテーマを研究中の医師がいるので紹介します」と演者に約束をしました。

患者会の世界連携を目指して

 最終日の夜には、同会議に参加していた英国の患者アドボケートのジーン・モスマンさんと夕食をともにする機会を得ました。

 モスマンさんは欧州における患者会活動や研修について紹介し、また私たちの質問にもひとつひとつ丁寧に答えてくれました。とりわけ、自国の患者活動の課題について次のように話しました。「英国では患者が横断的な連携をとっていますが、もう一歩踏み込むことが大事だと思っています。つまりいくつかの患者団体がそれぞれ別々のことを訴えても、行政は動いてくれない。皆の声をひとつにまとめて初めて、患者の声は届きます」と話しました。最後には、患者会同士の世界連携を深めていきましょうとモスマンさんと誓いあいました。

 全てのプログラムを終えた3人は、「帰国後、この学会で感じたことを周囲の人々に発信していき、学びや問題点を共有していきたい」「ここで感じたインスピレーションを、具体的なアイデアやアクションにしていきたい」と今後の抱負を語りました。世界がん会議への参加を通して、患者参画の実現に向けた様々な課題を新たに胸に刻み、中国を後にしました。  (市民医療協議会 杉山真理子)

[関連サイト]

UICCホームページ(英語)
http://www.uicc.org/

UICC2010年世界会議(英語)
http://2010.worldcancercongress.org/

UICC世界がん宣言(英語)
http://www.uicc.org/declaration

WHO アクションプラン2008-2013(英語)
http://www.who.int/nmh/publications/9789241597418/en/index.html

更新日:2010年08月18日

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